2009年06月22日

倉橋由美子『偏愛文学館』(講談社文庫)(読書日記)

 
偏愛文学館 (講談社文庫)
偏愛文学館 (講談社文庫)倉橋 由美子

講談社 2008-07-15
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 比較的新しい本だったので未読だった。私が倉橋さんの作品をまとめて読んでいたのは2001年〜2002年ぐらいのことで、私が知ったのはその頃とはいえ倉橋さんご自身は体調不良のためもう新作はほとんどない状態だった。小説もエッセイも読んでいたのだが丁度この本の出たのが単行本は2005年だったので見逃していたのである。
 倉橋さんはエッセイで自分の小説の元ネタをあっさりと公表してしまうことでも有名らしい。しかし非凡な作家なので、元ネタがこれこれですと知られたところで屁でもない、というのも事実である。この、自分の好きな作品を採り上げたエッセイ集にも、実は元ネタとして使われた作品も含まれているのだが、どーってことない(笑)。
 この本がいいのは、その語り口だ。面白いと思う作品を褒める言葉も、読むに値しない作品とはどういうものかを斬り捨てる言葉も、小気味いいことこの上ない。この本も、他の本同様図書館で借りたものの、いっそのこと買って抱えて読み返そうかと思ってしまった。どちらかといえば、つまらん作品がどうしてつまらんのかをバッサリと説明してのけている部分が素晴らしい。
 当然ながら?面白い、と挙げられている作品のいくつかは借りてみた。この本が出た頃に読んでいれば、勿論その頃に借りていただろう。古い作品もあって、奇跡的に図書館でも借りられるものもあったが、今では入手不可能(と、倉橋さんご自身わかっていて紹介している)なものもあるのは残念である。
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2009年06月16日

倉橋由美子『幻想絵画館』(文藝春秋)(読書日記)

 
幻想絵画館
幻想絵画館倉橋 由美子

文藝春秋 1991-09
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おすすめ平均 star
starよもつひらさかへの道

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  「絵と、その絵が出てくる短編」でワンセットの作品の短編集。
 これも「桂子さんシリーズ番外編」で主人公はやはり慧君、かつ、倉橋さんお気に入りの絵の画集。
 洋ものは、パウル・クレーにデルヴォーにと、私の好きな画家とかなりかぶったので、絵を見ているだけでも楽しかった。
 でも、和もの(水墨画)に関しては私は全く門外漢なので、それぞれの短編も楽しみきれず残念だった。
 いや〜…興味がないものは、わからないんですよ…でも全部わかれって言われても無理なんで…。
 短編は、どれもやっぱり不思議なお話。慧君のスーパーウルトラ大脳皮質が管理する「ネットワーク」が運営するいくつものサークルというか集まりのメンバーが毎回登場して、絵にまつわる奇妙な物語になる。
 絵を楽しみ、物語にフーンとなり…
 多分、倉橋さんご自身、お好きな絵を紹介する機会が得られて、作品も書けてと、楽しい仕事だったのではないかなあ、なんて、お茶を濁した感想で済みません。
 それにしても、世の中には奇妙で面白い絵が一杯あって、楽しいなあとあらためて思いましたね。
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2009年06月15日

倉橋由美子『老人のための残酷童話』(講談社)(読書日記)

 
老人のための残酷童話 (講談社文庫)
老人のための残酷童話 (講談社文庫)倉橋 由美子

講談社 2006-06-15
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おすすめ平均 star
star社会が見えるこわいおはなし
star地獄
star相変わらずの鋭い観察眼

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 広い意味で「残酷」。具体的に言うと「悲惨」「グロい」。記憶を頼りに書けば、『大人のための残酷童話』よりもグロテスクな場面が多いように思う。文章が淡々としてるというか、文体に騙されてしまうが内容はかなりグロい。しかし未来を、「老人」(高齢化)をキーワードにつきつめていくとありうる、世界。
 テイストとしてはファンタジー調あり、昔話風あり、普通の小説ありで、どれも皮肉。そしてどうしても…移植やら地獄めぐりやら姥捨て山やらが、どうしたって現実としていずれは生々しい、グロい話になってしまうのか、それとも、この人の手にかかったから、で済んでくれるのか。ありえなくはない、最悪の未来のファンタジー、というところか。
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倉橋由美子『よもつひらさか往還』(講談社)、『酔郷譚』(河出書房新社)(読書日記)

 
よもつひらさか往還 (講談社文庫)
よもつひらさか往還 (講談社文庫)倉橋 由美子

講談社 2005-03
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おすすめ平均 star
star02年刊行の連作短編集(文庫版は05年)
star九鬼さんのカクテルで独自の世界を紡ぎ出す幻想的な傑作短編集
starあいかわらずの不思議な世界

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酔郷譚
酔郷譚倉橋 由美子

河出書房新社 2008-07-16
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おすすめ平均 star
star淫にして、妖なれども、卑ならず
starよもつひらさか往還拾遺
star素晴らしくかつ残念

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 「サントリークオータリー」という、お酒を出す店に置いてある(らしい)サントリーの広報誌に連載されたもの。
 連載することになった経緯は先日採り上げた『倉橋由美子 夢幻の毒想』(KAWADE夢の手帖)に書かれている。北杜夫さんの長女・斎藤由香さんがサントリーの新入社員の頃、「好きな作家に書いてもらっていいよ」と言われ、真っ先に、父の北さんが大ファンである倉橋さんに依頼した。体調が悪いしと断る倉橋さんに、「体調の悪い時は何ヶ月休載してもいい」と食い下がっての連載。(「クオータリー」ってことは季刊誌?で休載と言ったら凄いことになるけど(笑))
 『よもつひらさか』は存命中に、『酔郷譚』は亡くなられた後に刊行。
 倉橋作品をずっと読んでいる人になら、あ、これは桂子さんシリーズの番外編として考えればいいのだな、とわかるのだが、知らずに連載誌を手に取った人はいきなり「慧君」とか「桂子さん」とか言われても困ると思う(笑)。でも、シリーズを知らないと人物の関係(シリーズ内ではどんどん増えるし複雑)が全くわからないにしても、ストーリーを知っていなければ理解できない話ではなくあくまで独立した短編の連作だし、こういうキャラクターがとにかくいて、書かれている通りなんだと思えばいいのか。そもそも、ほろ酔いで手に取る読み物なのかもしれないし。
 九鬼さんというバーテン(兼、入江家=主人公の少年・慧君の祖父で元総理大臣の「入江さん」を長とする=の家宰のようなもの)が作り出す不思議なカクテルに誘われて、妖しく、少し怖くて、よくわからない物語が始まって、元のバーに戻ってくる。(注:慧君は、初登場時14歳、超人的大脳皮質を持っているという設定で、酒は飲むわナニはするわのスーパーお子様である。)
 元々が倉橋作品は一言で言えば「浮世離れしている」であって、その中でも意識して完全に「浮世離れした物語」であることが目的のような作品群。
 古典の素養がないと元ネタがわからない辛さは存分に味わえるが(笑)、それは仕方ないとして、古典のことは全く知らない私は元ネタはスルーして、ひたすら奇妙な物語を楽しんだ。
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2009年06月13日

張仲* 岩井茂樹訳・注『最後の宦官 小徳張(朝日選書434)』(朝日新聞社)(読書日記)

 
最後の宦官 小徳張 (朝日選書)
最後の宦官 小徳張 (朝日選書)張 仲忱

朝日新聞社 1991-09
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おすすめ平均 star
star宮廷社会の暗部がわかって面白い
star期待外れ

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 (*は、りっしんべんに沈むの旁)
 …相変わらず、飽きつつこれでやっと最後かな。
 で、今回の「最後の宦官」は、「まともに引退した最後の宦官」、言い換えれば、これは関連書籍でよく言われていることですが、「最後の大物宦官」ってことですね。
 西太后の腹心として有名な李蓮英の一世代下で、22年の奉仕の後、最後は皇室の世代交代に従って宮中を去り、天津で大金持ちとして優雅な余生を送った。著者は主人公の養子(兄の子)の子、だから「宦官なのに孫がいる」のパターン。まあ、史上最も有名な「宦官の孫」は曹操だけどね(笑)(父曹嵩は元は夏侯氏の出で、大物宦官曹騰の養子となった。ただ、曹騰は前漢の功臣曹参の子孫を自称しているが、そんな血筋なら何故宦官なんぞになってるのかという…。陳群は曹操が宦官の孫であることから、敵だった頃に曹操の弾劾文に物凄い悪口を書いている。この陳群こそ、後に曹操に重用され九品官人法を作った男である)。
 で、この小徳張の生涯二度の里帰りの二度目、墓参りのために大金、多くの従者に料理人まで引き連れてやってきた大イベントを見て、宦官になろうと決意したのが、文字通りの”最後の宦官”孫耀庭だった。とこのような「伝統」が清末…というよりもう清朝が公式には終わった頃にあったわけですね。
 で、内容はというと、読み物としては面白い、かな(笑)。岩井氏が注やあとがきで指摘している通りの、小徳張の記憶違い(彼は公式の取材には応じたことがなく、辛うじて残った記録がこの、孫への昔語りなのである)、脚色、自身の美化などがあり差し引かねばならない部分が結構ある。しかし、つい読んでしまう覗き見的な部分もある。まあそういうわけで、学術書ではなくあくまでこういう昔話もあった、ということで。
 ちなみに、岩崎氏がこの本を訳出したのは、今の私と同い年の頃である。もし私もあのまま学問の道に残っていたら、と、ふと無駄なことを考えた(笑)。留学もしたかったし。岩崎氏は年齢から考えても今は、というか私が大学院の頃で既にベテランの学者さんだろう。同じ時代を研究していたが、テーマが全く違ったせいかこの方のお名前を当時拝見したことはなかった。縁は異なもの。 
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2009年06月12日

寺尾善雄『宦官物語 男を失った男たち(東方選書12)』(東方書店)(読書日記)

 
宦官物語―男を失った男たち (河出文庫)
宦官物語―男を失った男たち (河出文庫)寺尾 善雄

河出書房新社 1989-09
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 うん同じジャンルの本を続けて読むと飽きてくるな(笑)。さくっといこう。
 この本は、リンクは文庫にしてますが原書は1985年と古いもの。今朝読んだ『宦官』にこの本のかなりの部分がそのまま使われております。パクったのは当然『宦官』の方で、両者は章立てもほぼ一緒。つか後者がホンマパク(ry…ワル宦官と、いい宦官(蔡倫と鄭和しかおらんわ…『宦官』の方には寇連材もいたけどな…わー懐かしい名前だ)をそれぞれ特集してるのも一緒。
 あとこの『宦官物語』がいかにも古い本だなあと思うのが、文章が苦々しさに満ちてるところですな(笑)。臭いものから顔をそむけるようなっていうか。
 で、ずっと読んできて1つ気になってるんだけど、切った後に、必要な穴が塞がらないよう挿しとくものが「蝋の針」なのか、同じ「ろう」でも金へんの方の字なのかで全然違うんですが、本によってこれが違うのね。基にした一次史料の字がどこかで読み間違われたのか、それとも史料の時点で混乱があるのか…
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顧蓉・葛金芳著 尾鷲卓彦訳『宦官 中国四千年を操った異形の集団』(徳間書店)(読書日記)

 
宦官―中国四千年を操った異形の集団 (徳間文庫)
宦官―中国四千年を操った異形の集団 (徳間文庫)尾鷲 卓彦

徳間書店 2000-11
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おすすめ平均 star
star宦官の真実がわかる!
starわが友、宦官
starたいへん興味深い本ではありますが

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 申し訳ないのだが、最初の方で感じた胡散臭さを最後まで引きずってしまった…いや…割と史料にも当たっている方だとは思うのだが…
 うーん何故、そこまで「偽宦官」にこだわるか…その、最初の方というのが、安得海が偽宦官だったと決め付けて書いている所。これはナンセンス。先日読んだ孫さんの本で、孫さんが、「出仕してからも定期的に検査があるので絶対ばれる」と証言しているにも拘らず、その上証拠もないのに、偽宦官という前提で話を進めている。
 権力者に寵愛された宦官がみんな偽者だったらきりないじゃん…
 まあ、逆に言えば、定期的に検査があったり、この本に言う「三年ごとの小手術」「五年ごとの大手術」というものが本当にあるのだとすれば、いかに偽宦官希望者が後を絶たないかということだとは思うけれど。宮中に入れればうまみも大きいので。
 でもなあ…全体に、簡単に言えば好きになれない本だった。「異常」の面にスポットを当てすぎっていうか。しかし世に宦官本の種は尽きまじで(彼らには種がないけど)、これからも胡散臭くてスキャンダラスなだけの、この本より数段ひどいものは出続けるんだろうけどねー。
 そうだ、「現代医学によれば人の成長は8年ごとに区切りがある」と書いてあるんだけど、根拠は(笑)。この本の著者に「現代医学」とか言われても「古代医学の考え方によれば」にしか思えないんだけど。8歳以前に切っていればまた生えてくるって、何ソレ…ナニだけど。
 そうだ、「宦官の栄禄」って何見て書いたの…。宦官じゃないし…。彼の実の娘が溥儀の母親ですけど!ってかこんな初歩的な知識、日本人の訳者にないのか???
 あと、文体が仰々しくて、いかにも中国語を訳しました、っていう感じ。河出文庫版の孫耀庭伝も同じで、NHK出版の方の孫耀庭伝はかなり日本語としてこなれてた。
 収穫は、「宦官の罪は、重用する皇帝自身にある」と、そう皇帝自身が述べている(by乾隆帝)史料などを基に主張していることと、溥儀と特殊な関係にあったという(これはNHK出版の方の孫さんの本に載ってた。どこまで信用するかは人それぞれだけど)宦官の写真が載ってたことぐらいかな。
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2009年06月11日

『倉橋由美子 夢幻の毒想』(KAWADE夢の手帖)(読書日記)

 倉橋由美子 (KAWADE道の手帖)
4309740197

 わー去年の11月に出てたんだ。
 こないだの土曜日、デパートに行ってレストランの順番待ち中、でっかいソファで、奥行きがありすぎてふんぞり返るような格好になって、目の前の書店の本棚をぼーっと眺めていると、「倉橋由美子」の文字が…
 ナニ!?と引っ張り出してみたのがこの本。
 好きな作家の回顧ものムックは、情報が整理されていたり関係者の話が読めて面白いので欠かさず読みます。
 早速借りねば!とすぐさま携帯で図書館に予約を入れていると順番が来て呼ばれて(番号札を取って待つ)、慌てて、隣のおもちゃ売り場にいる母と子供を呼びに行った。
 こうして時々リアル書店に行くと、いつも何かしらは「こんな本出てたんだ!」となりますね。家に入ってからは電車の吊り広告も新聞の広告も見られないから新刊情報からは完全に遅れてるので。ネット書店いくら使ってたって、そうそう自分の読みたい本にはちゃんとぶつかりませんよ。
 さて、この倉橋さんは、2005年、69歳で亡くなられました。それを知った時は、何でこういう人に限ってと思いました。作家の七十、八十なんてまだ十分現役じゃないですか。生きてさえいればあと10でも20でも(例え短編であっても!)素晴らしい作品が読めたのにと。こうして今69歳という年齢を見ると、決して早死にではないのに、その時はとても冷静には考えられなかった。そんなに作品の多い人でもないし長編も近年は練りに練られた軽い味わいのものが多いので、正に水の如く淡い交わりではありましたが、まだいくらでも読めると思っていたので。
 実際には、90年代に入ってからは体調を崩されていたそうで、私がこの方の作品を初めて読んだのは2000年代なわけですから、比較的新しいものでさえ10年ほど前のものだし、遡って読んだものに至っては私が生まれる遥か前に発表されたものだった。だから正確には現在進行の作家ですらなかったのに、私の中では「今」の作家だった。知って僅か数年で亡くなってしまった作家だということが未だに信じられない。
 いくら好きだ好きだと言っても、出会ったのはブログの方を始める前だったのか、今念のため調べてみたらやっぱり一度も採り上げた事がない。オマイガーッ!!!
 仕方ないのでこの際愛を告白しておく。出会ったのはご多聞に漏れず『大人のための残酷童話』で、これが世間的には一番の売れ線なのかもしれないが勿論売るための本ではないし、やはり倉橋さんの倉橋さんたる作品である(私は借りたか、買ったのになくしてしまったかしていたのだが−余りにも子供だったので、まさかその後また出会うとは思っていなかったのだ。一番、ちょっと怖い話を書く作家、程度にしか思っていなかったのはその頃の私である−、偶然、結婚したら旦那の蔵書の中に単行本版があった)。
 
大人のための残酷童話 (新潮文庫)
大人のための残酷童話 (新潮文庫)倉橋 由美子

新潮社 1998-07
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おすすめ平均 star
starイチビリが書いた苦笑童話
starスッキリサッパリ残酷な童話の世界を満喫
star「教訓」の妙味

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 初期作品は、わかりにくいのは4分の1ぐらいは時代が離れているせいにしたいのは山々なのだがやはり私の脳みそが足りないせいだろう。あと、カミュ、カフカといった、本歌取りの基になった作品を読んでいないせいもあるだろう(どうも「文学」というものは苦手で、今後も読むことはないと思う)。
 好きなのは、1人のヒロイン、共通した登場人物で、その都度テーマを変えながらも書き続けられている「桂子さんシリーズ」だ。不思議で、高潔、知的かつエロティックで、夢幻。大変な教養と知識を基に高度に構築された夢物語が好きな私にはドンピシャの作家だった。(共通した登場人物が回を追うごとに増えていき、しかも関係が複雑なので、系図を紙に書き出しておいて読んだ…)
 (彼女より後に本格的に全部読むことになった山風も、作風は全く違うが「物語の作り方」の根本にある教養とそれを売りにしない真の実力、遊び心と、「文壇」と距離を置いて自分を貫く強さは同じである。筒井康隆もそうだ。結局、実力があって面白いものを書いて、「文学」なんて妙な権威など気にしない人が好きなのである。)
 私小説だの純文学だのは好きではないところも一緒だ。どうも日本の文学ってのはナルシスティックな私小説だの何をもって「純」なのかも実はよくわからない純文学のみを文学とするおかしな集団である「文壇」があって、そんなもんほっときゃいいのに権威は欲しい人が減らないから未だに存在する。まあそれも含めてほっとけばいいや。
 大体、自分が文学を書いてると思ってる奴って衒いの塊じゃん。私はそういう衒いのない作家が好き。
 好きな本を読み、作家は好きな風に書く。そうしている作家さえいればいいのだ。
 そういうわけで、結局どこがどう好きなのかは言えないが、頭のいい人で、凄い話を書いても読んで疲れる文章ではなくて、生き方、創作の姿勢、…全部がカッコイイ。としか言えない。(私には好きな女性の作家はこの人と松浦理英子しかいない。)
 今回のムックで一番好きな部分を挙げれば、既に発表されたエッセイの採録「倉橋由美子のウィット事典」の「お」の項、「オリジナリティ」。
「これがある、と言えばつまり褒めたことになるらしい。しかし大体、一流の本物は、由緒正しくも何かの模倣であって、なおかつ偉大である。オリジナリティがあるなどと言っては失礼に当たる。それがあると言う意外に褒めようのないものが大概三流以下なのである。」
どおーですか、このカッコよさ!
 もう例は枚挙に暇がないので、とっつきやすい『残酷童話』や桂子さんシリーズから是非読んでみて欲しいとしか言いようがないです。
 私も、亡くなってから刊行されたものや、いくつか落としていた最近のエッセイ集があったので、慌てて図書館に予約して、今日これから雨が止んだら取りに行く予定です。
 あと、読んでいた頃はまだ子供がいなかったのですが、今は、このムックにもある、倉橋さんの、お嬢さん2人の母親でもある部分についても考えることができるようになりました(最初のお子さんを産んだ年齢も私と一緒だった)。「筋金入りの子供嫌い」なのは私も同じで、「子供たちのくだらないおしゃべりをおもしろがり、腰をかがめて子どもたちを理解しようと努める」母親となることは、社会的動物としては駄目になる、と考えていること、「常に大人として接する」という考え方も全く同じだったのでほっとしました。勿論、倉橋さんは「育児より仕事を優先する理由はない」「子どもは母親に似せて自分を作る」というごくごくまっとうな考えをもつ人で、実際にお子さんが小さい頃は仕事をセーブしていました。私は単にめんどくさがりで子供をほうっておいているだけです。まあ、「母親らしい」人間にはなれないと最初からわかっているし(勿論それができる性格の人もいますし児童館で「いいお母さん」も沢山目にしますが)、子供レベルに自分を落としても子供のことがわかるとも思えないのでこのままでいきます。もしかしたら、まだうんと小さいうち(3歳ぐらいまで?)は、それこそべったり一緒にいるぐらいでないと子供は淋しいのかもしれませんし(それに正直、本を読んでいる姿を見せて読書の習慣をつけさせても…小説なんか読む時間があったら理数系の勉強をして手に職をつけて、私のようにならず、自立した人生を送ってほしいと思うので)、君の母親は残念ながらこういう人間なんだとわかってもらえるのはもっと大きくなってからだろうから、小さい子供に過剰な理解力を求めている気はしますが。
 これ以上は、こんなに頭のいい人と私なぞを一緒にしていると思われても申し訳ないので詳しくは書きません。
 まあ、実際、「可愛がられた記憶がない」と言いつつも、倉橋さんの2人のお嬢さんは立派に育っているし、口では何だかんだ言っても、女の子2人だったから、そりゃあ可愛かったと思いますよ。いやもう、女の子ってのは(異性の方が母親にとっては可愛いとも言いますが)母親にとってはまた特別で。可愛いんですよ。女の子ってのはどんなに小さくても女の子で、自分と似ているけれども違って、コピーのようで全く違う人間で、面白いですね。
 ↓「桂子さんシリーズ」を、順不同で。
 
城の中の城 (新潮文庫)
城の中の城 (新潮文庫)倉橋 由美子

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ポポイ (新潮文庫)
ポポイ (新潮文庫)倉橋 由美子

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starポポイとはなんぞ?

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夢の浮橋 (中公文庫 A 17)
夢の浮橋 (中公文庫 A 17)倉橋 由美子

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stars萌え萌え「桂子さん」
stars倉橋流教養小説の源流

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シュンポシオン (新潮文庫)
シュンポシオン (新潮文庫)倉橋 由美子

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おすすめ平均 star
star夢のなかで観たような紫の上のくだり

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交歓
交歓倉橋 由美子

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おすすめ平均 star
star最後の長編

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2009年06月09日

賈英華著 林芳監訳『最後の宦官秘聞 ラストエンペラー溥儀に仕えて』(NHK出版)(読書日記)

 
最後の宦官秘聞―ラストエンペラー溥儀に仕えて
最後の宦官秘聞―ラストエンペラー溥儀に仕えて林 芳 林 芳 NHK出版

日本放送出版協会 2002-08
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おすすめ平均 star
star正直、おもしろい。
star一気に読みました
star一人の人間としての宦官のエピソード

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 先日の、凌海成著、〔文武〕華・衛東訳『最後の宦官 溥儀に仕えた波乱の生涯』(上・下)(河出文庫)の記事には、「別の人のも借りてあるので」と書きましたが、この本も同じ孫耀庭さんでしたすいません。
 この方が一番長生きというのもありますが、逆に言えば、孫さんの回想にもあるように、宦官の多くの末路は悲惨で、そもそも戦乱で多くの人が死んだ中で彼らもその運命も免れず、或いは城を一歩出れば不具者としてどう生きることもできず悲惨な最期を遂げた。だから生き抜いて語れる人というのは本当に少なく、正に「ラスト宦官」のポジションを独占しているのがこの孫さんなんですね。多分今後この「最後の宦官」ジャンルの本が出るとしても、同じこの孫さんの手を変え品を変え程度なんだろうなあ。(李蓮英という手もあるけど)
 今回の本の最後の方にもあるように、孫さんは最晩年は天然記念物的扱いで”保護”されていたような状態だったそうです。長生きって、凄いですね。前回の本が書かれた頃は80代後半でご存命でしたが、今回の本には90代で亡くなったとあります。
 私としてはどうしても、先に出た方に肩入れしちゃうってのもあるし、今回の方は原本が長大なため、出版社(多分現地の)の要請で1.当時の宦官の生態、2.溥儀たちの宮廷生活に絞っての抄訳になっており(それでも長い)、前回の上下刊がちゃんと幼少時から晩年まで「生涯」を詳細に描いているのに対し、今回のはどちらかといえばどうも卑近な興味で読む人にも堪えるようになっているのがちょっと…。つまり、「宦官は見た」「大奥」的な部分、正直ちょっと下品な部分も余さず描かれていて、ああやっぱりこういうのが求められてるのかなと。しかし、前回の本とかぶるとはいえやっぱり面白くて一気読みではありました。ただ、今回のは幼名もなくいきなり「耀庭」で出てきたりするので、やっぱり前回の本も読んでおかないと片手落ちかなと。何だかんだで、同じジャンルに複数の本があれば、内容はかぶるくせに絶対全部読まなきゃいけないようにはできてるんだな世の中って。
 NHK出版って、結構この「清ラスト波乱万丈もの」、出してますね。以前ちょっとだけ感想を書いた、愛新覚羅恒イ(字が出ない)、李珍・水野衛子・横山和子・佐野ちなみ訳『世紀風雪 上 幻のラスト・エンペラー』『世紀風雪 下 清朝皇族の末裔達』もNHK出版だった。
 ただ、NHKってつくといきなり権威があるように思えちゃう傾向もどうかなあと。やっぱり、先に出ている『最後の宦官 溥儀に仕えた波乱の生涯』も読んで欲しいですね。これは詳細です。今回の本には描かれていない、溥儀の紫禁城退去から再び溥儀に仕えるまでの冒険と辛酸もかなり詳しいし。新しい本が出ると「上書き」的に前の本の価値がないかのように思われるのではないかと心配です。
 さて、宦官の歴史は殷の時代からというのでまあ考えるだけ無駄なぐらい長いですが(三田村泰助『宦官―側近政治の構造』中公文庫が未だにスタンダードだと思う)、日本にはない制度ですねえ。何でかはよくわからないけど。ともかく、宦官に関する本を読むたびに思うのは、ほんとに人間扱いされてないな…ということです。権力者といえども人間ですから、人が人を使うということには、相手が人間でない方が気が楽なのか、それとも本気で人間に「人間」と「人間でない」の区別があると思っていたのか。鹿島茂さんのフランス宮廷関連の本にも、王というのは使用人を人間とは考えていないからこそ、却って、風呂や着替えを見られようが部屋におまるがあって人前で用を足そうが平気だったんだそうです(でも「公開出産」は流石にやりすぎだろ…見てたのは一般人もだし…)。そういえば、皇后エンヨウもおまるを使っていたそうですが、彼女は流石にまともな神経では辛かったようです。
 こうして、卑屈になることに慣れきった人々が、革命だと言われても困る上に、儒教では最大の不孝「子孫を残せない」を既に犯している。外へ出ると色々な意味で糾弾され蔑まれるわけです。主人公の孫さんは更には文化大革命も生き抜く。この文化革命中の、誰が地主で誰がそうじゃないかっていう基準も無茶苦茶で、寺住まいの孫さんも何故か「寺の財産を管理している」とみなされたか「地主」に。とはいえ、めぐりめぐって事なきを得、そのまま国の仏教関係の仕事について平穏な晩年を過ごす。うーん。やっぱり、生き延びたモン勝ちだなあ。
 本の内容全てが本当かどうかはわかりませんが、なるべく正直に生きる、骨惜しみをしない、人とむやみに争わないなど、大変な時代を生き延びた人の生涯には、いつも何かしら得るところはあります。
 しかし宦官ほど異常ではないにしても、出世したり生き延びられたりするのが結局、能力ではなく(あるに越したことはないけど)、「人に好かれるかどうか」だってのは胸が痛い。サラリーマンだってつまるところそうじゃないか。孫さんはそういう、人に好かれるタイプなんだそうで。羨ましい。
 それに、人に腰を屈め続けることは、サラリーマンでも変わらないような気がするし。「すまじきものは宮仕え」は真理だろう。世の中自分を屈せずに生きることなどできないけれど、できればしたくない(笑)。自分を騙したくはないけどやたら我を通すのもまずい。バランスですね。
 
宦官―側近政治の構造 (中公新書 (7))
宦官―側近政治の構造 (中公新書 (7))三田村 泰助

中央公論新社 1963-01
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おすすめ平均 star
star「つまらないけどオモシロい」
star宦官に関する基礎的文献

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2009年06月08日

井上祐美子『公主帰還』(中公文庫ほか)(読書日記)

 
公主帰還 (中公文庫)
公主帰還 (中公文庫)井上 祐美子

中央公論新社 2007-09-22
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 短編集。これまたいつもの(笑)、宋の時代のお話が7つ。宋(北宋)の初めと南宋の初め。
 表題作は、宋が北半分を異民族に奪われて南遷したばかりで、「北に連れて行かれたが逃げてきた」と称してナントカ王とか公主とかが突然現れる、という事件が続いていた頃の、実在の偽者と本物をめぐる皮肉な物語。
 人間って、いつの時代も詐欺のパターンって変わらないですねえ…。
 怪異ものもあり、ちょっと恋愛めいた話ありと、どれも…淡々としてて(笑)。あーどこがいいのか説明できん!
 しかしどれも、ひとひねり、ひと味付けあると言えて、そのひねり、味付けが実にいいんですね。ひねり編は、余りにも有名な「白蛇伝」を題材にした「白夫人」(昔山口淑子さん主演で「白夫人の誘惑」だったか、そんな映画もあった)、味付け編は「芙蓉怨」あたりが代表でしょうか。
 とこんなつまらん紹介しかできませんが、いつものハイレベルです。
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2009年06月07日

井上祐美子『柳絮』(中公文庫)(読書日記)

 
柳絮 (中公文庫)
柳絮 (中公文庫)井上 祐美子

中央公論新社 1999-12
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star考え抜かれた東晋の歴史物語
star華麗なる貴族の才女の一生

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 南北朝の初め、東晋の名家−あの王義(本当の字は出ないのでこれで代替)之の息子!に嫁いだ、実在の才女の物語。
 同じく実在の才女の話といえば『非花』にも収録されていますが、これは長編ということで、「え〜、才女の長い話かあ〜、どうしよっかな〜^^;」と思い、敬遠して、同じ日に借りた中では一番最後に回してしまいました。後に借りた本を先に読んでしまったりもして。
 才女の話って、気後れするんですよね〜(^^;)。何つったって、「何故我が家にこんなにもアホウが…」と恐らく親を嘆かせたであろう愚鈍な娘ですんで。ご先祖様もさぞやお嘆きであろう、ってかそんな暇もないか。あの世でも忙しそうだもんなぁ。
 井上さんの歴史ものの例にもれず、この本も淡々とした話なので、どこがよかった!と具体的に説明できないのが口惜しいところ。史料を実にきちんと読み取った上で綿密に構成され、かつ読みにくくない清涼さと味わい。
 あと、「女性が女性を描く」パターンで、この井上さんの作品はギリギリ嫌味じゃないですね。
 この作品も、主人公の女性の視点なんですが、まあ何とか、才女であることは自他共に認めている人だけれども、それに対するコンプレックスも持ち合わせている。何というか、女性が女性を描くことについて、女性だからこういう風に描けるんだ!!!っていう自負みたいなのが強くない。
 私は、女性が女性に関する歴史を研究することや、女性が歴史上の女性について書くものは、基本的には好きじゃありません。
 自分の大学の出身学部(史学部)の紀要で、後輩たちの卒論の題目一覧を見ても、女の学生は大抵歴史上の女性や女性の何かについての歴史をテーマにしているんですが、「何で…」っていつも思ってしまいます。
 「女性のことは女性が一番わかる」という考えが、大嫌いなんですね。
 女性だからこそできる!とか、そういう気負いがプンプン臭ってくると嫌になるんです。
 女性史だとか女性の権利を研究してる女性たちって、どうしてああもカリカリするんでしょうね。
 そんな気負いで鼻息荒くされるぐらいなら、ちょっとぐらいズレてて不満はあろうが、男性に、客観的に研究して欲しいです。勿論、女性の健康や身体についての研究や、これからの医学にはどんどん女性が表に立ってかつ長く続けてほしいと思いますが。そういう分野以外だったら、男がやっても女がやってもそう変わらない。女が男っぽいことをするのが嫌い。あんまり男性に女性を理解されても困るけど(笑)。
 要は、女でなきゃできない、と思うことは、男が男にしかできないことがあると思い込むのと同じぐらい無駄なんですよ。
 だから私は所謂フェミニズムとは遠い所にいるし、狭義のフェミニズムっていうか、「女性のことは女性が一番わかる」という考えに固執することが嫌いなんですわ。
 …とブッてみましたが、結局、私は「照れ」があって正面から女性史を見られないだけなんでしょう。
 やや話がずれましたが、この作品のヒロインは、これまた東晋の滅亡前夜という激変の時代で、更には実家・謝氏と婚家・王氏(瑯〔王邪〕王氏。ヒロインの伯母らは同じく瑯〔王邪〕の名門諸葛氏に嫁いでいる。この家は言うまでもなく三国志で有名ですね)両方もまた、名族であることよりも実力の世に移る中でゆっくりと滅びようとしていく中、現実を見つめつつしなやかに強く生きていく女性です。あの当時の女性の常識は頭ではわかっているけれど、持ち前の才能に対する自負もあり、少しだけ女性らしい女性とは違うけれど、主張はしすぎない。うーん。上手く言えないけど微妙な線を守ってるっていうか。最後には、孫恩の乱で屋敷が襲われ、夫が自害しても(王氏の面々はよく言えば優しすぎ、悪く言えば動乱期に向かない人だというのがヒロインの評価であった)、自分は長刀を持って抵抗し、捕まってしまうけれども、腐りきった東晋の朝廷が王氏が名門であるがゆえに出した軍に助けられ、東晋滅亡寸前の世で以降は悠々自適の余生を送る。
 読んでて面白かったんだけど、やっぱりあっさり読みやすくて、あんまし突っ込みたいところがない…(^^;)
 あとは、ヒロインが一番尊敬した叔父・謝安、弟で名将と謳われた謝玄、その孫で文人だが後に性格が災いして刑死した謝霊運など、ああこの人もこの人もそういえば習ったなあという人がボンボコ出てきて、いかに謝氏や王氏(王義之、献之父子は世界史の資料集にも出てくる有名人ですな!ただ献之は悲劇の人ですが…)が名家であるかがわかる。まあ元々六朝文化っていうのは独特にいいもんなんですよね。思えば後漢末以来中国は長い戦乱に入ったわけで、でも南朝の追い詰められた中でバカバカと生まれた文人墨客や学問はかなり見所が多いと思います。
 で、この場合の名家というのはヒロインの言う「北から移ってきた西晋の名家」という意味ではなく、やっぱりこれだけ偉人を出せば立派なもんだと後世の人間が思う意味での名家です。
 ヒロインは、身内が次々と死に、かつ東晋が傾いていく中で、名族というだけで出世する時代ではなく(晋は九品官人法=曹操の部下陳群が定めた=による所謂門閥政治で、その行き着くところ実力のない人間の跋扈だったと一般には言われる。また、東晋では西晋の八王の乱に懲りて皇族の力を削ぐことに熱心だったとも)、実力や人望がものを言う時代になったと言うけれど、むしろ謝氏にしろ王氏にしろ、文人武人としてそれなりに優れた人(確かに西晋時代のご先祖様はもっと凄かったようだけど)を出していて、そんなに悲観することもないんじゃないかと思わされ、でもそういう家が淡々と斜陽を迎えるというストーリーが無情を感じさせます。とにかく、みんな早死にだし(笑)。
 で、これらの有名人に対するヒロインの評価も面白く(身内だから色々言ってる)、よくよく史料を読み込んでいるなと思いました。主な史料は『世説新語』だそうですが、確かにこれ、ネタの多い史料です。有名なところでは三国志の登場人物もかなり採り上げられているので、三国志ファンの方でも元ネタがこの本というエピソードを沢山ご存じでしょう。
 有名人と言えば男性ばかりですが、2つの名家を繋いだ女性もまたいた。女性の、繋ぐ、見つめ続けるというポジションの面白さを非常に感じました。見過ごされてきた女性に大きく光を当て、かつしみじみとさわやかな物語。
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エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)(読書日記)

 
世界一の美女になるダイエット
世界一の美女になるダイエットErica Angyal

幻冬舎 2009-04
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starダイエットの価値観が変わった!!
star読みやすく、実践しやすい。
star現在実行中。。。

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 買っちゃったのよ昨日早速…(笑)
 私の本棚は図書館とか言いつつ、こういう本は買うんかーい。しかもいつもの主義に反して、別に私が買わんでも売れてる本をー。(笑)
 でも、昨日デパートにお中元の手配をしに行ったら、母と待ち合わせる前に寄った本売り場で平積みになっていたんですもの…!
 そのデパートの友の会の積立金で買えるから、私のお財布は痛まないんだもの…!
 …こんだけ誘惑に弱い人間がそもそも痩せられるかっつの(笑)
 とまあ、つい買ってしまって、あとは一気読みですねー。
 一言で言えば、内容は、「わかっちゃいるけど目先のカロリー減に捉われて忘れちゃうこと」「わかっちゃいるけど実践できないこと」のオンパレードなわけですよ。
 新しいことを言ってるのは、「卵を食べてもコレステロールは上がらない」ぐらいかな(びっくり!でも完全栄養ですからねー。ちゃんと食べた方がいいそうですよー)。あとはもう、これだけダイエットや栄養についての情報が溢れ返っている昨今、ものすごーく珍しい情報ではない。とはいえ、それでも人は忘れたり実践はできなかったりする。だからこそ、この本のように、大事なことがきちんと整理されまとめて列記してある本は便利ではあるんですね〜。
 必要なことしか書いてないので字は大きいですが、内容は濃いですよ!「苦労してるのに痩せない…」という人には絶対お勧め!
 (ついでに言うと、口絵写真の著者も、色白でブロンドで肌もピカピカ!!むしろ西洋人でこれだけ肌がきれいな人も珍しいってぐらい。)
 タイトルに「ダイエット」とつければ売れるんでしょうがないんでしょうが、「こうすれば痩せられる」ではなく、その前に「こうやって健康な身体を作り、維持しよう」という話。でも、「健康が美の大前提である」ってことも、忘れちゃいますよね、これだけ世の中に「カロリー0」「低カロリー」「低脂肪」が溢れていると。
 いくら1日のカロリーを減らせても、毎日昼ご飯が「カップヌードルライト」じゃ駄目だよなあ…
 いや、私は別に毎日じゃないですけど(笑)。「カロリーを減らすつもりで痩せにくい身体を作っている」という、この本でも最も指摘されている過ちは、バッチリ犯してる!
 健康な身体を作ることが美の基本。そりゃそうだなあ。
 肌がきれいな人は内臓も元気。うんうん。私も子供も割に丈夫な方で、私は肌荒れって人生でしたことないし、子供も布おむつだろうがどの紙おむつだろうがどのおしりナップだろうがかぶれ知らず、肌荒れ知らず。まあしかし私は確かに腸が、便秘ではないけど元気がなくて、ヨーグルトと納豆で大分改善されてきたところです(私は女の癖に便秘ではないので、たまってるものなんてないだろうと思ったらさにあらず…結構出ました(笑)。食べてる量は変わらないのに2週間で1キロ減りました!)。丁度この『世界一の〜』にも、風邪が治りにくいなど調子の悪い時は腸を整えようと書いてありました。
 そういえば昔、既に、『痩せたい人は食べなさい』って本もありましたよね。この『世界一の〜』も、要は「食べるべきもの」(油といえどもいい油であればむしろ必ず摂るべき)と「極力避けるべきもの」が書いてあるわけです。(巻末にレシピやメニュー例、お勧めのサプリメントのデータや通販のURLも載ってます♪←美容には金かかるねえ…。)
 日本は世界で2番目に化粧品にお金をかける国なんだとこの本にはあります。しかし、「高い化粧品を使うより、いいものを食べた方がよっぽどいい」とも書いてあります。そうだよなあ。丁度今私も、「やっぱ安い通販化粧品じゃなくて、ちゃんとお店で有名メーカーのを買った方がいいのかしら…」とか思ってたんですが(しみもしわもないけど、ややたるみとくすみが…)、やっぱり、今使っている安いのを使い終わるまで大分あるし、先に食生活を改善しよ〜。
 肌に塗る化粧品は、表面つまりもう死んでいる細胞にしか届かないとあります。だから、極端な話、ヤバいものばかり食べている人がどんなに高い化粧品をつけても、どっちが勝つかと言えば乱れた食生活の方、つまり不健康になる。ぐわあ。ジャンクフード多いんだよなあ最近。
 悪魔ですな〜、トランス脂肪酸(笑)。
 ジャンクフード。
 うん。わかるわかる。一時的に血糖値上げて、その分急激に下がるの。
 甘いものやジャンクフードって、妙に一瞬元気になって、それがやめられなくなるんだよね。この本によれば、何と動物実験では、麻薬よりも白砂糖の方が依存性が高かったそうです。ひええ。気をつけよう。お昼の外食はやめよう。うん。まあ昼間1人でいると、昼ご飯って一番困るんですが、そこは何とかしよう。
 まあそんなわけで、今日は早速!美容院(座ると全身が映るサイズの鏡なので、毎度毎度自分のデブさに嫌気がさすんですが…)の帰りに鼻息荒くスーパーに行き、この本に載っていたもの(ナッツ類、ドライフルーツなど)を買い込んできたら、3,000円…。まあ、近所のDイエーが元々全部高めなのもありますけどね。
 でも効果のわかんない化粧品(あれって相当、気の持ちようかもね…)よりも、一応食べるものだからいいよね…
 ↓巻末に載っている、著者お勧めのサプリメントの1つ。これは値段が…(^^;)。でも、載ってるサプリメントを全部買わなくたって、家計簿と相談して少しずつ身体にいい食材のストックを増やせるようにしていきたいもんです。
 
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 この本も注文しちゃいましたー。他の商品と同梱にしたので届くのは来月ですが。私はA型なので!で、「A型の」なのは、最初に一番人数の多い血液型のを出して、また別の血液型のも出るってことかな。
 
“世界一美しい”A型美女になる方法
“世界一美しい”A型美女になる方法Erica Angyal

主婦と生活社 2008-12
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おすすめ平均 star
star痩せそうな予感♪
star無理なく出来そう
star先立つモノも必要

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『ロマノフ朝最後の皇女 アナスタシアのアルバム―その生活の記録』(リブリオ出版)(読書日記)

 
ロマノフ朝最後の皇女 アナスタシアのアルバム―その生活の記録
ロマノフ朝最後の皇女 アナスタシアのアルバム―その生活の記録Hugh Brewster 河津 千代

リブリオ出版 1996-10
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おすすめ平均 star
star歴史好きの人必読!悲劇の皇室物語!

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 子供と図書館の子供コーナーにいた時、子供が本棚から本を引っ張り出して、一緒に落っことしたのがこの本。
 ええ!?こんな貴重な本が子供コーナーにあっていいの!?もったいない!!
 今回初めて知ったんですが、皇女アナスタシアには写真の趣味があり、そのお陰で何と「皇族が自分で撮った家族の写真」が現存しているんですね!
 今では携帯で簡単にできてしまう「自分撮り」も、当時のカメラで頑張って撮ったものが収録されてます。
 この、自分がカメラに収めたものが、あと数年で消えてしまうことも知らずに、残された写真…
 いやこれは!写真集だからって何で子供コーナーに!いや、文章が子供向けだけど…
 もったいないっ!
 この本を手に取って、他の本も読みたいと思ってくれる子供が多いことを希望する!
 ↓アナスタシアといえば…やっぱりこれですよね。衝撃過ぎるので読むにはお覚悟を!
 
ロシア幽霊軍艦事件 (角川文庫)
ロシア幽霊軍艦事件 (角川文庫)島田 荘司

角川書店 2004-10
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おすすめ平均 star
starこれぞ奇想
star史実小説みたい
star史実のフィクション化、レベル高すぎます。

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2009年06月04日

凌海成著、〔文武〕華・衛東訳『最後の宦官 溥儀に仕えた波乱の生涯』(上・下)(河出文庫)(読書日記)

 
4309472699最後の宦官―溥儀に仕えた波乱の生涯〈上〉 (河出文庫)
Ling Hai Cheng Li Wei Dong Yu Bin Hua
河出書房新社 1994-06

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4309472702最後の宦官―溥儀に仕えた波乱の生涯〈下〉 (河出文庫)
Ling Hai Cheng Li Wei Dong Yu Bin Hua
河出書房新社 1994-06

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 世の中には「最後のナントカ」ものというのがありまして、その中で、少ないとはいえども「最後の宦官」ものも、1ジャンルとして存在していますな(笑)。
 で、他にも「最後の宦官」と言われる人はいるようで、この本の主人公1人だけが最後ってわけではありません(他の「最後の宦官」ものも借りてあるので読みます)。
 溥儀を出してくりゃあ売れるということで、サブタイトルは「溥儀に仕えた」となっていますが、最初から最後まで溥儀に仕えたわけではなく、あくまでも孫耀庭、幼名留金の波乱の生涯のドキュメンタリー。「家政婦は見た」「大奥」的なものを期待するとがっかりします(私もそうでないとは言い切れない…(笑))。
 最後も最後、この留金は、貧しさゆえに自宮(自ら切って宦官になること)したものの、何とその直後に辛亥革命(勤めるアテを見つけてから切ってもよかったのではないかと…)。表向き、「宮廷」はなくなってしまいます。しかし急に制度が何から何まで変わるはずもなく、耀庭という名前をもらって溥儀の実家にあたる醇親王家に仕え、その後「四太妃」の”筆頭”を称する端康太妃(あの珍妃の姉)に仕え、更に運命のいたずらか、新婚の溥儀夫妻の許へ。
 ここで気さくな皇后に可愛がられるものの、今度はクーデターでとうとう溥儀一家も紫禁城を出され、耀庭もまた、若くして外界へほっぽり出されてしまう。
 そうなると宦官とは哀しいもので、色眼鏡で見られたり、自身でもコンプレックスがあったりで、色々な商売に手を出しては失敗してしまったり、昔の宦官の大物に助けられたりと、「溥儀に仕えた」どころじゃない苦労をすることになる。
 やはり宦官になったのが遅すぎたということで、本来なら皇帝に仕え高位の宦官に任ぜられでもすれば、莫大な財産を蓄え故郷に錦を飾ることもできたものの、実体のない宮廷に仕え、どさくさの間にも何も持ち出さず(ホントか?)では、故郷でさえも心安らぐ場所ではない。こういう動乱の時代ほど、人とは正直なもので、いざ耀庭が宮廷で出世したと聞けば、村人たちも家族に冷たくなったとのこと。そのため、彼は何度か故郷に足は踏み入れるものの、いつも長居はできずに北京に舞い戻る。
 一番嫌なのが、この、やっかみってやつですよね。中国のこの時代の「波乱万丈もの」というジャンル(このジャンルも盛んですな!)では、主人公は一度や二度どころでなく、必ずこの「やっかみ」であることないことを告げ口されて悲惨な目に遭うのがパターン。人が自分よりちょっとでもいい目を見ると告げ口をしたり無実の罪を着せたりで(自分が追いつくのではなく人を引き摺り下ろすという思考回路)、読んでいて嫌になります。でも読むんだけど(笑)。
 しかし…
 この「中国の波乱万丈もの」では、必ず主人公が「いい人」なんですよね(笑)。
 いや、絶対に嘘だとは言わないけど(笑)。今回の耀庭も、幼い頃から正直ないい子で、親のために宦官になったし、その他多くの、主人公が皇族の一員だったり庶民だったりでも、主人公はどんな時でも心の清らかさを失わないことになっている(笑)。
 正直だけで生き延びられる時代じゃないし、通説でいけば「正直な宦官」なんぞ「クラゲの骨」というやつですが(見たことない、の意)。 
 そもそもこの本、ドキュメンタリーと言いつつ文章は完全に小説。聞き書きぐらいはしているんだろうけど(出版時点で耀庭は存命)…まあ、眉に唾は少しつけないといけません。それはもう、この時代を扱った「波乱万丈もの」、みんなそうです。だって誰だって、生き延びたを幸い、自分に都合のいいようにしか語りませんからね。
 そんなわけで、「最後のナントカ」もので「波乱万丈もの」で、一宦官の伝記でした。「できた人間の主人公が、有為転変をくぐり抜け、正しく生きた者が勝つ」というパターンには些か飽きもしていますが、読んでしまいました(笑)。
 おまけ。
 宦官と言えば、映画「ラスト・エンペラー」に1人、本物の生き残りが出ていたように思うのですが、私だけでしょうか…
 溥儀とジョンストンが同席していて、そこで食事のメニューをえんえんと話している老齢の宦官。確かこの時、ジョンストンが、「陛下の秘密(ネズミ)が顔を出しておりますが…」と言うんだっけ。
 この宦官、原語で聴くと、声が特徴的に裏返っているというか、成人男性の声ではないんですね。宦官は男性の声を失い、「ガラスを引っかくような」とも言われるキンキン声になってしまう。この宦官役の人、映画製作当時の年齢と辛亥革命からの年数を考えると、清朝末期に10代半ばぐらいで本当に宦官をしていたとしてもおかしくない。ただ、「太る」(去勢という意味では猫と一緒…)とされている宦官の割には痩せてましたが。これが、「ラスト・エンペラー」に関する私のずっと持っている疑問です。(Wiki「ラスト・エンペラー」の記事で「宦官」として日系アメリカ人俳優がクレジットされていますが、彼は当時まだ30代なので、この宦官ではないようです。)
 (※後日、レンタル版「ラスト・エンペラー」を借りて観たのですが、この、メニューのシーンはなし…。むしろ私が昔TVで観た方のがディレクターズカットだったのでしょうか…でも同じ俳優さんが最初の方の、3歳の溥儀が入浴しているシーンに出ていて、やっぱり声が甲高かった。)
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2009年06月03日

井上祐美子『雅歌』(集英社)(読書日記)

 
雅歌
雅歌井上 祐美子

集英社 2001-07
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star『雅歌』
star重すぎるテーマに疲れ切った作者

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 のっけから系図が出てきてしかもその、漢人ではない名前に無理矢理漢字を当てた人々の名前の横にカタカナの西洋名まで書かれているんだから大変である。
 どうやらこれは清の初期に、キリスト教に改宗した一族の話であるらしい。これは厄介だぞと心構えして読み始めたのだが、やはりこれも、ついつい読まされてしまい、読み終われば長嘆息である。…って、読み終わってさてどう表現しようかというと難しいのもいつものことだが(笑)
 改宗しちゃった一族というのが、何とヌルハチの嫡長子・チュエンの子孫だから大変である。『海東青 摂政王ドルゴン』では、ドルゴンにとっては厄介な相手だったチュエンの。だから彼らは皇室の直系も直系どころか、現皇帝よりも本当は高貴な血統でさえあった。
 この一族がもう、迫害されにされまくる。
 たまたま中国人修道士・ジュリアン李の危機を救い、この一族に関わってしまった満州人高官の弟・フランは、兄フルダンから、教会に出入りを続け、見聞きしたことを報告するよう命じられる。兄は元は情報網を司る役所の人間だった。
 チュエンの子孫一族が迫害されまくるのは、別にキリスト教を信じているからではなく、元々は現皇帝・雍正帝の即位前に兄弟で帝位を争った時に誰が誰に与していたという話がずっと引きずられているせいなのだが(こうして一族内の権力闘争をしてると鎌倉幕府みたいに見えるなー)、皇帝の弾圧に対して、全てを神の御心として彼らが従えば従うほど、弾圧する側も立場を失って更に事態は厄介なことになってしまう。
 しかし弾圧が厳しさを増すに従い、一族側の死者(処刑されたわけではなく、過酷な地や牢での病死)も1人、また1人。一族の美少女・マリアこと祥児を恋するようになったフランにもどうすることもできない。
 この、主人公は別にどうすることもできない、っていう話だからわけわからんわけで(笑)。何も解決しないのである。キリスト教を信じている人間には、責め苦も神の思し召し、しかし逆にいい思いをさせてやっても神の恵みでは、為政者としてはやってられないし、議論にもならないのである。しかも清朝は、修道士たちがもたらす西洋の技術は欲しいし、西洋諸国の手前、信教の自由は認めている(元朝といい、異民族の王朝は元々自分たちが異民族だからか、宗教に寛容である)。しかもそもそもは帝位争いだった。皇帝という位にあれば誰もそうなのだと作者は主人公にわからせているのだが、雍正帝はとにかく猜疑心を捨てることができず、長い長いチュエン家迫害は終わるともなく、皇帝としても、振り上げた拳の下ろし所もなく、彼らが棄教さえすれば収まるところをそうしないから、せめて病死してくれればいいという、埒の明かない状態に。
 で、読んでいる間は、ああこの人たちどうなっちゃうの、で、止まらないのだが、終わってみると…何が言いたい話だったんだろうと(^^;)。
 強引に考えれば、主人公が何を解決するわけでもなく、キリスト教に改宗するわけでもない、ということに意味があるのかな。痛快な冒険小説ではないということに。かといって、従容として弾圧を受け続ける一族の姿を通してキリスト教の素晴らしさを訴えるなんてことはもっとない。
 とにかくいろんなことが書き込まれていて、読んでいる間楽しませてもらえる、ということだ。政治と宗教。権力闘争と宗教。皇帝という「至尊の位」の、誰にも理解されない苦悩。様々な問題が含まれているけれど、どれ1つとしてこの作品は答えは提示していない。ただ、運命に揉まれつつ、それぞれに何かを見出していく人々がいるだけである。何が言いたいのか?と考えてもわからないけれど、読後感は爽やかだ。
 そうそう、主人公の兄・フルダン、素敵ですね。彼は実在の人物で、フランもその庶弟として実在した人物だと思われるのだが、この兄弟愛がいい!
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歌野晶午『家守(やもり)』(光文社文庫)(読書日記)

 
家守 (光文社文庫)
家守 (光文社文庫)歌野 晶午

光文社 2007-01-11
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おすすめ平均 star
starひねった話
star読みやすかったのですが、引きはいまひとつでした
starくつろげる筈の家が・・・

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 今日は、朝1冊くだらない歴史の本を読み(歴史の本を書くのに一般書=二次資料しか参考にしてないってどういうこと?ヘリオガバルスが載ってるから読んだだけ)、児童館から帰ってこの本を読んだ。
 昨日の夕方、「そういえば歌野さん久しぶりだな〜」と思って借りたやつ。最後に、かの『葉桜の季節に君を想うということ』とか『女王様と私』を読んで以来、もう何年になるだろう?(信濃譲二シリーズも好きだった〜)
 で…
 この本は…
 「いやあああああああ!!!(T_T)」
という怖さでした(T_T)
 ホント怖かったよ(T_T)
 今日は、1冊目の本といい(1冊目は結構グロい内容でもあった)、読後感が良くはない本ばっかりだな〜(--;)
 でもこの『家守』は、推理小説として面白かったのも事実です。
 「家」にまつわる5本の短編。表紙には「連作」とありますが登場人物も別々の、全く別の5作品です。
 で、あくまで推理であってホラーじゃないんだけど、こう、「家」にまつわる事件、悲劇ってのは、どうしてこうも、”イヤ〜な話”が多いんでしょうね〜。
 ホント、イヤ〜なというか、救われない話が多かったです…
 個人的に一番「ひでぇな、救われねえな」と思ったのは、「埴生の宿」ですかね。一番被害者が浮かばれない話。
 うーん。ホントに、イヤ〜な話だった。いや決して、面白くなくはないんですが。テイストの問題ですね〜。暗い。怖い。浮かばれない。
 お勧めしないわけじゃあありません。やっぱり歌野作品は読んで損はないと思います。
 ↓この作品はもう…傑作の誉れ高い作品で、元々歌野作品のファンなので、賞取らなくたって読んでましたが賞取っちゃったんでなかなか図書館で順番が回ってこなかった記憶が。この本にはホントに騙された!でも騙されるために読むんですからね、推理小説って。その点では、騙されやすい私は推理小説を読むのにとても向いていると思います(笑)
 
葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)
葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)歌野 晶午

文藝春秋 2007-05
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おすすめ平均 star
starちょっと無理が
starトリックよりも
starミステリではない

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2009年06月01日

井上祐美子『紅顔』(中公文庫)(読書日記)

 
紅顔 (中公文庫)
紅顔 (中公文庫)井上 祐美子

中央公論新社 2008-09
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star長嘆あるのみ

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 今朝読み始めてやっぱり面白くて、子供が起きてくるまでに一気読み。
 なかなか簡単にはわかりにくい時代(明末清初の長い動乱期)の話で、普通に読んで読めれば勿論問題ないけれど、やはり歴史的背景が一通りわかっている程度の知識はあった方がより楽しめるだろう。
 先日読んだ、清の真の建国者ドルゴンを描いた『海東青』の、最後の方に少しだけ出てきた呉三桂と、その愛妾陳円円の物語。『海東青』での呉も、学校で習うような単なる売国奴とは違った感じだったのでおやっと思ったのだが、彼を主人公としたこの作品も、同じく、表面的な言い伝えとは異なる、動乱期の不思議な男女関係を描いたものである。(勿論、明の側から見た偉人ドルゴン、という側面もあるので、是非『海東青』の方もセットで読んでほしい!)
 一般的には、呉三桂は都に残してきた愛妾を、国を裏切って都を蹂躙する李自成の部将に奪われたことで山海関を明け渡して清軍を導き入れた売国奴、とされている。故に円円もまた傾国の美女の1人である。(天下の難関・山海関は「内側から開かれない限り絶対に陥落しない」と言われていた、と、大学の授業で習った)
 しかし実際には、愛妾どころか、蘇州一の美女として人の手から手へ売られてきた円円は、流石に後宮には受け入れられずに戻されて仕方なく呉に押し付けられ、山海関が開く前には僅か数日しか呉と過ごしていなかった。(だとしてもよっぽどの美人だから、傾国伝説も生まれるわけだが…)
 タイトルの「紅顔」とは、後に詩にうたわれた円円のこと。紅顔の美少年、という言葉は知っていたが、うら若い美しい女性の顔のことも紅顔って言うんですねえ。
 この詩については、Wiki呉三桂の項を。
 その円円を、丁重に扱い、呉に返したのがドルゴンだった。ドルゴンに逆らえば、ただ女のために国を裏切った汚名だけが残ってしまう。二重三重に縛られ圧倒される呉。
 ドルゴンが「皇帝になれるのにならなかった男」なら、呉三桂は、いつ明を裏切ってもいい動乱期の武将だが数日の差で即位(と言っても、うまいことやらないと李自成同様帝位僭称だが)を逃し、ただ売国奴の汚名だけが残った男である。
 明滅亡時にはまだ30代で、動乱期にふさわしい野望もあったが、その前に立ち塞がったのが、圧倒的に器の違うドルゴン。結局の所、呉は、明の遺臣(と称する輩も、情勢が悪くなればこぞって清に尻尾を振る様子も描かれている)にとっては、清国草創期に、その走狗として働いた武将に過ぎなかった。
 その呉の、隠した野望を拾って持ち続けた円円。
 通説では国を裏切るほど愛したはずの彼女と呉との関係は、意外にも淡々としたものだった。呉は権力を得れば得るだけ次々と新しい女性を入れた。だが、最初に唯一、彼の野望を理解してくれた円円とは、離れるどころか年を経るほど別れ難く、大切な存在になっていく。
 このあたり、不思議すぎて、読み終わってみるとよくわかりません(笑)。凄く面白い本だったのですが。
 でも、呉にも呉の言い分があるんだとか、移り変わりの激しい時代の人々のことは決して表面的な記録だけではわからないものだとか、とにかく色々なことがわかって、ハァーとため息しかなかったです。
 長いんですよね、明末、っていうか、最後の皇帝が死んで国号は一応清になってるんで、時代的には清初にあたる時期の動乱って。
 明の最後の皇帝・崇禎帝は、一族を自ら手にかけた後、紫禁城の裏山の木で首を括って死ぬ。北京に行った時、今は景山公園となっているその裏山(ここから見る紫禁城も素晴らしい!)で、「これが崇禎帝が首を吊った木です」ってガイドさんに教えられた(そういう看板も立っている)けど、そうかー!?本当にそうかー!?まあ、三国志ツアーなんか行くと、ガイドさんが平然と「これが曹操が馬をつないだ木です」とか言うらしいから、それよりはまあ時代が近いだけちょっとだけ信じられるかな(笑)。
 というわけで、帝は死ねば済むけれど、まだまだ民の苦しみも、有象無象の皇族の反乱も続く。
 それだけ明は大きな国だし、皇族が無駄に多すぎ!(笑)
 元々明は南から起こった帝国なので、江南にも拠点やら、担ぎ出される皇族やらが多すぎて、北から来て北京を制圧した清軍と雖もなっかなか全土制圧には至らない。だからこそ、歴戦の兵である呉も活躍することになったわけですが。
 その間には、『揚州十日記』にも描かれた皆殺しの悲劇や、『蜀碧』に見られるような張献忠の暴虐もあった。
 ほとんどが伝説で有名ながら、日本人を母に持つ”国姓爺”鄭成功のエピソードも。
 国が変わるということは、単に都で政権が移譲されれば済むわけではないんですね。作者井上氏が好んで描く南宋もそうですが、国が変わる時には戦争は勿論、高い身分にあった人は身の処し方をどうするか、人によって価値観が違うので、分かり合えなかったり、誤解して罵り合ったりと、実に様々な争いが起きる。
 この作品で描かれるもう1つのカップルは、呉同様、心ならずも二君に仕えた文官とその妻(妓女上がりだが有名な女性文人)。結果的に「弐臣」(二君に仕えた者)と記録されようと、そこには様々な葛藤や戦いがあった。
 そして庶民は、上がどう変わろうと、生き延びるためには忠誠なんかどうでもいいでしょう。それに対して高位の人間だって文句は言えないはず。
 生か死か。正しい政治を望むか、民族の誇りをあくまでも守るのか。腐敗した王朝に仕え続けるべきなのか、新たな支配者の下で腕を振るうか。
 本当に人それぞれ。それぞれであって、歴史は全てを呑み込んで大きくうねって動いていく。もうそれだけのことだとつくづく思いました。
 そして、秘めたはずの野望を、ついに円円が呉に押し返す時が来る。
 …いや、賢い女性なら、秘めたままにしておけば?って思ったんですけど(笑)。
 この、耐え切れませんって言っちゃうあたり、単に素敵な美女と梟雄の運命の恋物語、じゃないんですよねえ。最初に円円が抱いたのは、恋心ではあったのだけれど。むしろ円円が、素朴すぎるほど自身には何の望みもない女性で、呉もまた、彼女ゆえにドルゴンに刃向かう機会も力もなくしたのに、遂に藩王の安泰に埋もれることはできなかった。
 井上氏の、他の作品でも、「傾国と言われるのは、妓女にとっては何の恥でもなくむしろ誇り」と言わせているが、悪名だってそれを受ける立場によっては褒め言葉にもなる。これは確かに正しいと思った。だから円円もまた、後世に悪女と呼ばれようとどうでもよかった。中国の知識人は死後の自分の評判を非常に気にするのが特徴ではありますが、別に気にしない人も、生きるだけ生きてみる人もいる。それでいいと思う。
 結局、ドルゴンとの器の差も、このまま「三藩」(清建国に功績のあった3人の明の高官)の1人として四川の地で自らの死までは安泰であろうことも、わかってはいながら、呉は清の4代目、名君康煕帝を挑発し、反逆者となる。
 聴こえてくる名君との噂に、呉は、康熙帝がドルゴンの生まれ変わりではないかとふと思う。ドルゴンの早死には「万全の条件を与えて転生させるため」に天がそうしたのではないかと。
 これ、アリかも!と思いました。この、「万全の条件」ってイイ!ドルゴン好きとしては、ありえないけどそうだったら嬉しい。
 北京に入ったのは3代目とはいえ、ヌルハチから数えれば既に4代目。16歳になったばかりのこの康熙帝に呉は敗れ、病死します。そして清朝はこの後、「康・雍・乾の隆盛」と言われる時代に入ります(その後の「嘉慶帝」が、こないだ清朝の皇帝を思い浮かべてみて、1人だけ思い出せないぐらい影薄いけどな…)。
 円円のその後は、不明です。元々、余り史書に記述はない女性でした。結局の所、男と女の仲は当人同士にしかわかりません。後世の人間はただ、有名なカップルに様々な名前をつけたり推測してみるだけのことです。
 偶々その時代に生まれ、野心を抱き、その野心を飼いならすことに腐心し、とうとう、運命の女性が捨てることなく預かっていた野心によって滅びる。
 ただただ、「歴史の授業」ではどう教えられようと、激しく、力の限り葛藤して生き抜いた人生には心動かされます。
 
海東青―摂政王ドルゴン (中公文庫)
海東青―摂政王ドルゴン (中公文庫)井上 祐美子

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 この本は、大学の時に明代を専門にしている先生がタイトルを挙げていたので読んでみた(古本で買って持ってる…)。ひたすら全編人が殺されまくる話。読んでいてかなーり食欲をなくす。
 
蜀碧 (東洋文庫 (36))
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2009年05月28日

井上祐美子『非花(はなにあらず)』(中央公論新社)(読書日記)

 
非花(はなにあらず) (中公文庫)
非花(はなにあらず) (中公文庫)井上 祐美子

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 ”花と、不思議な女性の物語”4編。梅、菊、牡丹、薔薇。タイトル「非花」は4話目のものではあるが、4編のうち2編で才女が登場するので、やはり全体にかかっているのかもしれない。
 才女の登場する最初と最後の2編は、実在の女性。間の2編は、不思議な架空の物語。どの物語も面白かった(どうですこの、才気のかけらもない感想!(笑))。敢えて説明するなら、どの話も激動の時代で、主人公たちは基本的に国難に巻き込まれており、その中でストーリーが展開する。1話目の実在の女性詩人については、私は脳足りんなのでその心情はよくわからないものの、余りにも無邪気すぎる強さで、本人は幸せだったろうなと思う。2話目の菊は、女性が登場するものの主役ではなく、しかし不思議な登場人物と国難と女性の縁談が二転三転していき、ちょっと味な仕上がり。3話目は、ファンタジックかつ、主人公の成長ぶりがいい話。4話目は、時代が清末で、ちょっと女性には重い内容。ただ、この小説が書かれなかったら日本人は知らないような実在の女性や当時の中国の高官の生活が描かれていて、非常に興味深い一編。敢えて1つ選べと言われたら、薔薇。でもどれも同じぐらい読後感がよかったなあ。
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井上祐美子『朱唇』(中央公論新社)(読書日記)

 
朱唇
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 短編集で、ヒロインは全て妓女。金陵(南京)や蘇州など、江南地方のお話です。
 特殊な世界の女性たちの、彼女たちならではの様々な美しさ強さを描き出し、そこに男たちの悲喜こもごももからませた、味のあるお話たち。とにかく上手いな、と思います。この人の作品は。
 それと、やっぱり、江南っていいですね〜。
 水。何たって水。水の都。水の都の花も川も美しく、月は輝く。そして茶も酒も飯も美味い(笑)。水がいいから食い物が美味くて米食文化。日本人には北方の文化よりも馴染みがあります。そうそう、食は広東にありというぐらいですから(金陵は広東じゃないけどね)、基本的に中国ってのは南半分は食べ物のいい地域なんですよね。いや勿論景色も素晴らしい所なんですが。何と言うんでしょうか、こう、「南の方」には、どこを切っても「潤い」ということばがぴったりきますね。読んでて、私の肌まで潤うんじゃないかというぐらい(笑)。
 そうした、水の都に、うたかたのように浮かんでは輝いて消える妓女たち。哀しさもあるんだけれども、ユーモアや誇り(彼女たち自身は、誇りだなどと思わない所がまたいいのだ)を持って輝ききる姿が、卑近な言い方をすればかっちょいいし、彼女たちを取り巻く男性陣も、物語のために登場する情けない男もいるけれど、ちゃんと描かれる人々は妓女たちに劣らず男前。そしてこの本も、やはり宋や明の末、混乱の時代を舞台にしています。国が移り行く時代と、ただでさえ入れ代わりの激しい花街でも、その中にしっとりとした物語が織り込まれている。
 個人的には、「歩歩金蓮」ですね。夢がある〜。”風流天子”徽宗(ってちゃんと変換されるし!)を描いた作品の中で、ここまで夢があるのもないんじゃないかしら。男性が読んで、自分がもしこの物語の徽宗だったらと思うと嬉しくて泣くんじゃないかしら。一度、「紫禁城の至宝」だったかそんな展示を上野で見た時、この徽宗の描いた絵も見ましたが、確かに上手かったですね〜。皇族に生まれなければ贅沢三昧で趣味に没頭はできないけれど、皇族に生まれちゃったばっかりにうっかり皇帝の座がめぐってきてしまって…。中国ではたま〜にこういう立場の人が生まれるんですよね。何事もとにかくあの広い土地の懐の広さと言いますか。
 食わず嫌いをしてはいましたが、歴史家ぶらない珠玉の作品は楽しめました。
 なお、この本は執筆活動中断後の復活作だそうです。いや、この人に時の断絶はない。
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2009年05月27日

半藤末利子『夏目家の糠みそ』(PHP文庫)、『夏目家の福猫』(新潮文庫)

 
夏目家の糠みそ (PHP文庫)
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夏目家の福猫 (新潮文庫)
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star息抜きの漱石研究

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 児童館の帰りに手に取り、然程厚い本でもないので午後読みきった。
 というか…まあよくあることだけど、『糠みそ』を基にして『福猫』が生まれたわけで、前者の文章はほとんど後者に収録されている。『糠みそ』を発表した後、その中の、漱石に関連する文章を集めて再編集したのが『福猫』。前者にあって後者にない、またその逆の文章が、それぞれちょっとずつ。故に、どっちかしか買えないなら『福猫』を。この作家の作品を追いかけていた人なら、両者の間には文庫で数年空いているので吟味する余裕もあるのだが、問題は、書店では一緒に並んでいるであろうことと、私のように図書館で急いで選ぶと両方借りちゃうってことである(笑)。まあいいや。
 なので、両者を余り区別しないで感想を書く。
 一時期、30を過ぎてから漱石を読んだ時期があり、その時、鏡子夫人の『漱石の思ひ出』、息子伸六氏の随想、あとこれは別のルートからだけど房之助さんのエッセイ(笑)など、関連書籍もその時一通り読んだ。ただ、半藤一利さんにご縁がなかったが故に(何か、難しい本ばっかりっぽいんだもん…)、末利子さんの本も読んでいなかった。そして今日偶然見つけて、借りた。(一利さんの方はこないだ『幕末史』を時間がなくて斜め読み…)
 一応説明しておくと、作者は漱石の長女筆子(松岡譲夫人)の四女つまり漱石の孫で、半藤一利夫人である。経歴を見るにかなりの才女と思われるが、エッセイを世に出すことになったのは60歳を過ぎてから。
 一言で言えば、きつい所もあるけれどまあ大丈夫だった、である。
 言い換えると、鋭い舌鋒で楽しませてくれる女流は何人もいるが、彼女はまだ私にボロを出していない、ということ。好きだったのにがっかりさせられた有名女性エッセイストは何人もいる。例えば、既婚女性や子連れの女性に対する妬みや偏見をむき出しにしてしまった中〇翠さん、子持ちの女性に「デ〇」のマイルドな表現としての「日本のお母さん体型」という言葉を連発してしまった群〇うこさん(偶然だが両者とも未婚だ)。彼女らと比較しては申し訳ないが、この半藤夫人は結婚もし、かなりバランスの取れた方であろうと思われ、この先も、妙な失言はしないだろう。文豪の孫に失礼な物言いかもしれないが、一見面白いようでいて同性に対してこそ侮蔑的な女流も結構いるものなので、最近では用心深くなっているのだ。済みませぬ。
 さて。話を戻す。
 きつい、というのは、文言がきついのではなくて、歯に衣着せぬ内容である、ということ。例えば、漱石で儲けようという姿勢が明らかすぎる土地と(漱石自身は然程その土地を愛していなかったにも拘らず)、漱石に愛されたにも拘らず漱石を前面に出さない余裕のある土地を比較するような一文は、漱石の孫が書くには些か問題はあるかもしれない…のだが、書いている。その他、ズバリ、という表現がぴったりで、しかしカラリとしていて、今の所は好きである。(この2つの土地については私も同意見。もっとキツく言ってやってもいいぐらいだと思う!)
 そしてあと2つあって。
 1つは、ありきたりだが、「有名人の孫って大変だなあ」である。
 でも、偉大な人物には必ずいつか、その偉大さを正しく伝える(決して、美化するという意味ではない。あくまでも、誤解を正したり、正確なことを伝えるということである)ために戦う娘が現れる。
 不思議なことに、誰かの事績や生涯の記録というのは、戦わないと正しく伝えられないようにできてるんだと、あらためて思いました。汚そうとしたり、捻じ曲げようとする力の方が常に強いから、守るためにはただ存在するだけではなく、戦う必要さえある。哀しいことです。
 『福猫』の方の解説で嵐山光三郎が言っているように、幸田露伴に幸田文、森鴎外に森茉莉、そして漱石には筆子経由で末利子さん…である。
 こうしてみるとやはり、「受け継ぐ」のは女性というイメージが強い。思えば、シーボルトも、為したのが娘であり、そしてイネちゃんが女医にならなかったら、日本人の彼への親しみや人気も、もう少し薄かったのではないかと思う。(あと、息子だとそんなに実家に執着しなかったりするしね…)
 まあこれは、父と娘の問題であると同時に、やはり「家と娘」の問題でもあると思う。やはり、実家を大事にするのはどうしても女性なのである。(私も、恐らく1人っ子になるであろう子供が娘でよかった(笑))
 もう1つは、何故か文豪の娘は男で苦労するなあ、ということである。まあそんなに多くの例を知っているわけではないけれど。あ、漱石の場合、夫人も相当に旦那で苦労したか。
 森茉莉さんは、彼女も大好きで小説もエッセイも全部読んだのだが、夫で仏文学者の山田珠樹とは夫のほぼ一方的な誤解が元で離婚。この時、夫の友人たちが手の平を返したように茉莉さんのあることないこと悪口を広めて回り、その最たるものが辰野隆だとエッセイに書かれていて、これもがっかりした。
 筆子さんの場合は、勝手に久米正雄に惚れられ(子供の頃のお写真を見るに確かに美人で、末利子さんも母のことを美人と書いている。両親のどちらに似ても醜くなりようがない)、勝手に「振られた」と、久米には夫松岡譲を貶める小説『破船』を書かれ、これが売れてしまった。最近になって娘の半藤末利子さんが父親の復権のために文章を書くまで、長く誤解されたままの夫婦だった。どちらの本にも収録されている、松岡譲『憂鬱な愛人』についての文章では驚かされてばかりだった。私は読んだことがないので詳しい内容は知らないが、確かに、学校の授業で漏れ聞いたのは『破船』の方ばかりだった気がする。しかし、末利子さんの証言によれば、結局、学校の授業でも出てくるほど有名になってしまった”恋の鞘当て”なんてものはなかった、というのが真相のようである。なのに、一方的に貶められた松岡は結局自主的休筆期間が祟って寡作作家になってしまった上、その作品も今では読むのが難しいという。「文学史」とは何と不公平なものか。(実際、地元の図書館では、彼の著書は、小説は2作品しか所蔵されていない)
 『漱石の思ひ出』までも、鏡子夫人と婿がぐるになって漱石を貶めたのだと言い立てる弟子には、ホンマ阿呆かと思う。夫婦のことは夫婦にしかわからん(笑)。夫婦以外では、せいぜい、完全ではないにしても子供にわかるぐらいだ。
 『漱石の思ひ出』でも思ったが、例え弟子でも、人間なんて勝手なもんだなあ。漱石が死んでしまえば勝手に自分の都合のいい師匠の像を作って強制することしかしない。そういえば、シーボルトにだって色々な弟子がいた。そうそう、男で苦労したといえばイネちゃん以上の人はいないかも。この場合も、対照的な弟子2人がいた。師匠の娘に、師匠の一周忌を待たずに手を出そうとした久米には、石井宗謙が重なった(久米は実力行使しなかっただけ石井よりましだけど)。イネちゃんの場合、更にその娘のおたかさんも、恐らく美貌故に男ではまた苦労しましたねえ。とはいえ、この2人の不幸なくして子孫はいないってのも皮肉なもんです。
 そうそう、半藤夫妻両方が長岡に縁深い方とあっては、私にも無縁ではありません(笑)。夫人は父方、一利氏は母方が長岡で、同時期に疎開していたのが縁だそうです。『幕末史』でも、その関係もありますが、歴史上の事実として半藤氏は「官軍史観」をいい加減やめようという姿勢です。そうだ、『幕末史』の記事に書きましたが、この本によれば漱石、芥川ら江戸っ子の作家はやはり”官軍”にはいい気持ちを持っていなかったそうですから、長岡出身の松岡譲と漱石とはもしかしたらそのあたりでも気が合ったかもしれません。
 松岡譲の碑が長岡の悠久山にあると書いてあったのですが、私も行ったのに見なかったなあ…。悠久山にある「長岡市立郷土資料館」は、長岡の風土文化と、出身の著名人の展示があるのですが、松岡譲はあったかなあ。ノーマークだったので気づかなかったのかも。山本五十六とか堀口大學ほか数人の展示は憶えてます。
 他にも、筆子さんの晩年のエピソードだとか、色々と興味深い文章ばかりなので、漱石ファン、女性エッセイストファンにはお勧め。半藤一利さんファンには…どうかなあ?(笑)
 重い話はこれぐらいで。
 『福猫』のあとがきに、2007年は漱石生誕140年で、江戸博で漱石展があった、と書いてあるのですが、これ正に行きたかったのに行き逃したやつ…。丁度その頃腹のデカさがピークで(笑)、途中で用事があっていつもと違う電車で病院に検診に行く途中、電車内にはその吊り広告、窓の外には両国駅。江戸博が過ぎていくのを見つめておりました…。
 先に『糠みそ』を読んで、冒頭がその糠みその文章で、お約束だけど、自分も糠にきゅうりを漬けっぱなしだったことを思い出した…。この季節(末利子さんによると4、5時間で十分という)に、丸1日以上…。きりのいい所まで読んで慌てて出しに行きましたよ…。色は悪くなってなかったですが、かなり塩辛くなっちゃってましたね…本当は塩抜きとかした方がいいのかもしれませんが、そうするとホントぶよぶよになっちゃって、糠のうまみも抜けちゃうんでこのまま食べます…
 実は、生涯二度目の糠も遂に先日諦めまして、新しいのを買って漬けているのです。前のやつは、使わない日はつい混ぜ忘れ、表面のカビを取っているうちにどんどん減って、折角買った漬物専用のホーローの器の底を埋めるのも大変なぐらいに…そしてとうとう修復不可能、完全に腐ってしまい、断念。やっぱり、食べないんですよ、大人2人では。糠漬けは必要、でも食べきれない。でも食べたい。私が塩分を気にしているけれど、でも発酵食品は身体にいい。そうした矛盾を抱えつつも、やっぱり新しいのを買いました。漬物ってのは、これがないとご飯が食べられないという年代では私はないけど、こう…リズム担当だってのはわかりますね。ちょっと目先が変わって、音も重要っていう。うん。だって、出てくると嬉しいもん。旦那の実家で出てくると、私が一番食べますね。ご飯2杯はいけます。
 前の糠は、塩気が弱い割にすぐ色がひどくなっちゃったんですが、今回のは色がそんなに悪くならないですね。ただ、スーパーで買った、ビニールに入ってる、出来合いの糠床なんですが、使わなくてもやっぱり混ぜなきゃいけません。冷蔵庫に入れろってんで入れてまして、それで然程漬かりすぎなかったのかも。今度こそこの糠は大事に育てたいです。
 『糠みそ』の97ページに、糠床のコツが箇条書きになっておりまして、メモ取りました(笑)。いつかはビニールのパックをやめて、陶器の壷みたいなやつ(実家にあった)に移したいなあ。専用のホーロー容器もいいんだけど、如何せん、きゅうりが1本漬けられる幅を優先したために表面積が広すぎる気がする。
 そういえば、ドラマ「クロサギ」では、山崎努演じる情報屋が毎度糠漬けをあれこれ工夫していましたが、これにも終盤でオチがちゃんとつきます(笑)。
 私は糠漬け派、旦那は柴漬けのような、よりポリポリ派ですが、出せば何でも食べるので出します。
 糠漬けの旬はやはり春から夏までで、半藤家同様、我が家でもできれば冬は白菜の塩漬け派。東海林さだおさんの、この白菜の漬物についてのエッセイはいいです!物凄く同感です!
 結論…糠みそは大事に(?)。
posted by 高野正宗 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする