
クリスティー、セイヤーズ、アリンガムと並ぶ、「黄金期の四大ミステリ女王」、最後の1人に遂にタッチ。
表紙を見て知ったのだが、ファーストネームはNgaioという不思議な綴り。それもそのはず、ニュージーランドの裕福な家に生まれ、当人はデビュー前の2年間!!しかイギリスに住んだことはないそうだ。それなのに推理作家としては作品の舞台はイギリスなのは何故かというと、本人の希望は勿論だが、当時としてはやはりその方が売れたのだそうだ。
先に『ヴィンテージ・マーダー』からいくと、これは別の事件の後大手術を受けたアレン警部が、ニュージーランドでの休暇で出くわした事件。いわば作者の「里帰り話」、かつ、旅回りの演劇一座で起こる殺人なので、推理作品よりも文才を傾注した演劇の世界を舞台にした、正にお得意の話。しかも、文中には、「植民地に住むイギリス人は、マオリ語の花の名前がきれいだのと、子供のファーストネームや洗礼名にする」とあり、作者の「ナイオ」という名前も、マオリ語の花の名前だそうだ。
この作品には、マオリの上流階級に生まれてイギリスで教育を受けた医者が登場する(現地に住んでた割には結構差別的な描写な気もするけどなあ)。その他、正に自分の故郷なので、元々の優れた人物描写に加えて風景描写も興味深い。処女作に比べると大分展開もすっきりしている。ただどこが『ヴィンテージ』なのかイマイチよくわからなかった(原題もVintage Murderである)。
脱線するが、マオリの王女でイギリスで教育を受け…というと、ソプラノの名花キリ・テ・カナワ。名前からも顔立ちからしてもそうとわかる。60〜70年代が全盛期か。ベーム指揮、ポネル演出の傑作オペラ映画「フィガロの結婚」の伯爵夫人などが有名。間もなく、「最後の日本ツアー」と銘打った公演も始まるということで思い出した。
さて、処女作に戻り、ロデリック・アレン警部。
「警官らしからぬ」とあらすじ紹介には書かれているが、この処女作だけでは、残念ながらどのへんが”らしからぬ”のか、はっきりとはしない。そもそも邦訳数が少なく、今出ている全部を読んでも、彼の全貌はわからないのである(おまけに、『ヴィンテージ』の前日譚『殺人鬼登場』は邦訳はあるが図書館にないので読めないし!)。このへんはクリスティー以外の3人の”女王”にも同じことが言えるが。
処女作で明らかになっているのは、背が高く足が長く、鋭いけど人当たりがよくいつも冷静、「オックスフォードで優秀な成績をおさめた」ということ、関係者をすぐに執事に雇えるほどの財力と家がある、ということぐらい。つまりは、他のエキセントリックな探偵に比べれば、まだまだ警官らしからぬなどとは言えない(警官があんまり崩れちゃってる、後のアメリカの、ハードボイルドや、やたら変な探偵の私立探偵ものも困るけど)。巻末解説によれば、立派な家柄の出だそうだ。これは、アリンガムの創出したアルバート・キャンピオンが実は貴族の出であるのと似ている。セイヤーズの探偵、ウィムジイ卿も正に貴族であり、オックスフォード大卒の美形(「作者が探偵に恋しすぎた」と揶揄されるほどで、実際、彼が結婚するとその後は1冊でシリーズが終了した)。ついでにいうと、怪盗ラッフルズも「貴族泥棒」である。探偵に身分が要求されるというのも、ある意味いい時代だった。逆に言えば、あの当時、クリスティーのポワロなんかの方がむしろ例外だったのだろう。当時の探偵とはイヤミなぐらい正反対に、小柄!外国人!(ヘレン・マクロイのベイジル・ウォリングはハーフだがやはり長身で学者である)貧しい生まれ!性格が少しヘン!(作者自身が彼を書きにくく、とうとうミス・マープルとは最後の扱いまで違ったのも、結局は富裕層出身の作者自身に合わなかったせいか?)。
『ヴィンテージ』の作中人物によれば(もうこの作品の頃には、遠くニュージーランドにまでアレンの名声は伝わっていて、現地警察にも下にも置かぬ扱いを受ける)、「イギリス貴族みたい」で、立派な著書もある。美しい女性には気持ちが動かされはするが、やっぱり冷静。
『アレン警部登場』は、ちょっと整理されてないところがあってバタバタはしているが、田舎のお屋敷で行なわれた毎年恒例の「殺人ゲーム」で実際の殺人が…というオーソドックスなお話で、そこそこロジックもしっかりしている。動機もまずまず。あの時代の女流の例に漏れず、ロシアのスパイ組織だの何だのの描写はえらくマンガチックだけどそれはしょうがないのだろう(クリスティーの『秘密機関』『NかMか』とか、ノン・シリーズのスパイ物なんてあーた(笑))。それもある意味、「味付け」に使う分には間違ってよーが大目に見てもらえた、という、いい時代だ。言い換えれば当時の大衆の知識だってこんなもんで、外人やスパイを恐れる割には知らなかったっていうこと。
ちなみに作者は元々は演劇畑の人で、女優として出演したり、脚本、演出を手がけ、演劇界への多大な貢献で「デイム」の称号を授与されたそうだ。となると、ドイルもボーア戦争擁護活動のお蔭で「ナイト」を授与されたので(よく勘違いされているが、創作活動のせいでは全くない)、純粋に推理作家としての功績でデイムになったのはクリスティーだけということか。
他の作品も、ある限りは読んでみるつもり。今後も論創社ある限り新刊の可能性は期待できる。ほんとに頑張ってんねー、論創海外ミステリ。












